39話:狂気の最中で映るは狂気の姿

月の港を眼下に望む宇宙船の内部には、先ほどまでの喧騒とは異なる、ひりつくような緊張感と噛み合わない言葉が飛び交っていた。

キャサリー

「じゃあぶっ潰しに行こう!アレクセイが強いからいけるいける!」

キャサリーは、自分の置かれた窮地を脱するため、最も単純で力強い解決策を提示した。

だが、アレクセイは感情を排した冷ややかな瞳を彼女へ向ける。

アレクセイ

「なんで俺が行かなきゃいけないんだよ」

キャサリー

「だってアレクセイは公務執行妨害だし、あと軍人をやっつけたんじゃん」

アレクセイ

「ユーリが殴られたからだ、、好き好んで殴りたい訳じゃない」

淡々と、しかし拒絶の色を隠さずにアレクセイは告げる。

軍人を打ち倒したその圧倒的な暴力は、決して彼女のために振るわれたものではない。

キャサリー

「え?、、、王子じゃないの!?」

アレクセイ

「そんな訳ないだろ、、、別に港が完全封鎖された訳ではないんだから抜け出せば良いでしょ、、マチル、、さん、、」

王子様による救済というお仕着せられた幻想を、アレクセイは容赦なく切った。

マチル

「まぁ、、、、あくまで検閲であってどうせ私らお尋ね者で向こうも後ろめたいことやってんだ、、突破は出来るんじゃないか?」

マチルは、テーブルに頬杖をつきながら答える。

アレクセイ

「ね、、、じゃあ君は1人で頑張れば?」

キャサリー

「何よそれ!薄情じゃないかしら!男でしょ!ちょっとは守ってやろうと思わない訳!?」

アレクセイ

「思わない」

キャサリー

「なんで!」

アレクセイ

「、、、、、、、、君にそこまでの価値はないし」

見ず知らずの少女のためにリスクを冒す合理的理由は本来存在し得ない。

キャサリー

「はぁ!?アンタは人を価値で判断してる訳!?それじゃ領主と一緒じゃない!人ってのはね助け合って」

アレクセイ

「力ある強い者に寄りかかる弱者のフリした強かな者なんじゃないの?」

キャサリー

「私は18歳!子供よ!」

アレクセイ

「なら俺は16だよ、、、子供だよ」

キャサリー

「ぬ、、、、むむむ、、、キィィ!この!馬鹿!!」

言葉の刃が噛み合わず、キャサリーの顔は怒りで真っ赤に染まる。

だが、アレクセイはどこか楽しげに、かすかな笑みを浮かべた。

アレクセイ

「、、、、、、、、、、、む、、ふっ、、どうかな?」

キャサリー

「そういうとこがモテないのよ!」

アレクセイ

「なんでモテなきゃいけないの?」

キャサリー

「モテない奴ってのは、、、うーん、、、なんでだろ?」

アレクセイ

「っふ、、、、ふふ、、っはっはっっは、、、胸にばっか栄養取られてるから馬鹿なんじゃない?」

アレクセイの口から飛び出した、致命的にデリカシーの欠けた言葉。

キャサリー

「なにを!抜群のこのプロポーションを!見て!分からない訳!?毎日夜22時には寝て朝6時に起きて走り込んでプロテインと栄養バランスを考えた食事作りあげたこのプロポーションを馬鹿にしやがったな!?」

キャサリーは怒髪天を突く勢いで、自らの肉体を鍛え上げてきた努力をまくし立てた。

彼女の美しさは天賦の才ではなく、厳しい自己管理の結果だった。

アレクセイ

「、、、、、、、そうなんだ、、、ごめん、、、それは知らなかった」

あまりに素直な謝罪に、キャサリーは拍子抜けする。

キャサリー

「調子狂うんですけど!!コイツ!!なんなの!?」

マチル

「へぇ、、、」

この不条理なやり取りを、マチルは面白そうに観察しながら机を一定のリズムで叩く。

ユーリ

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、アレクセイ、、、、」

ユーリは深い溜息を漏らす。

マチル

「で?、、どうするんだい?キャサリーは」

キャサリー

「私は悪い事してないわ!出ていく義理はない!あの領主がどっか行けば良いのよ!」

彼女は強く宣言した。だが、その正論を、静かな声が遮った。

ユーリ

「それにしては誰も、、叫んでる君を見ても、、誰もが見て見ぬ振りをして助けなかった、、、君も含めて今まで連れて行かれた人に対しての行いじゃない?」

ユーリの瞳には、先ほどの広場で冷淡に振る舞っていた群衆、そして他者の不幸から目を背けてきた世界の縮図が映っていた。

キャサリー

「私が悪い訳ないじゃない!罪を犯す方が悪いのよ!」

ユーリ

「、、、、、、、、、、、、、、、、(似てない)、、、はぁ、、、、そういう状況に追い込められてなお相手が悪いと?、、、人は生きてるだけで常に罪だよ、、それを罪とするかどうかを決めるのは常に周囲だ」

ユーリの言葉には、セロニカを失い、システムに翻弄されてきた痛みと冷徹な認識が宿っていた。

キャサリー

「な、、アンタはなんなの?助けてくれようとしたけど、、なんなのよ」

ユーリ

「、、、、、、セロニカに似てると思ったけど違うな君は、、優しさがない」

キャサリー

「、、、、、優しさが、、、、ない?」

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