33話:度願えばなんでも叶うなら

マチル

「本当に良いんだね?」

マチルの静かな確認に、二人の少年は重く、しかし揺るぎない頷きを返した。

ユーリ

「はい、お願いします、、、セロニカは綺麗なままで良いので」

カプセルの中に横たわる少女の顔には、マチルによって死化粧が施されていた。血流が止まったことによる不自然な蒼白さや、死後硬直によるこわばりは、柔らかな色彩の下に隠され、彼女はただ深い眠りについているように見えた。

アレクセイが、透明な蓋の向こう側にいるセロニカへと歩み寄る。

アレクセイ

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、うーん、、、送る言葉、、思いつかなかった、、セロニカ、、また会おう」

それは、再会を信じる友人に送る、飾らない別れの言葉だった。

ユーリ

「、、、セロニカ、、、、好きだった、、、、、、それしか知れなかった事が心残りだよ」

それは、最期の瞬間に結ばれた恋人に送る、あまりに短すぎる初恋の総括だった。

マチル

「トマス!」

トマス

「了解です! 艦長! 発射!!」

ドシュゥゥン!!

真空の宇宙に、鈍い衝撃音が響く。

宇宙船から射出された小さなカプセルは、一条の光となって地上へ落ちていく。

地球の重力に引かれ、落下速度は増していく。大気圏との摩擦がカプセルの外殻を焼き、暗黒の宇宙に燃え上がる尾を引いた。

地上にて。

静まり返った瓦礫の街から見上げる夜空を、流れ星が一筋、音もなく落ちていく。

カナリア

「宇宙葬か、、久しぶりに見たな、、、、」

ライターの火を消し、カナリアはその光を、煙草の煙越しに見つめていた。

レシーヌ

「、、、、、、、今度は幸せになれますように」

隣で祈るように呟いたレシーヌの頭を、カナリアは拳でポコッとたたく。

カナリア

「辞めとけレシーヌ」

レシーヌ

「な、、何でですか!? 」

カナリア

「既に終わった命で、その人間自身の魂だ、、幸せに死んだんだ、、勝手に人の人生を不幸にするな、、他者から見てどんな惨めな人生でもお前の人生ではないんだ、、押し付けるな」

レシーヌ

「しゅ、、しゅみません、、」

その光は重力のままにすべてを惹きつけ、チリも残さず空で燃え尽きる。

一筋の光は、地上に何も残さない。

ただ、見上げる者たちの瞳の奥にだけ、消えない残像を刻みつけて消えた。

用語集で見る →