31話:受け入れるのは何年後か

「で?、、、どうするんですか?コイツら」

「るっさいな良いだろ別に、それともなんだ?子供が死んで良いってのか?」

「いえ、、そうは言ってませんけど、、犯人の可能性があるんですよ?」

「ないよ」

低く、どこか投げやりな女の声と、それに食い下がる男の声が、膜を張ったような意識の向こう側で響いている。

アレクセイ

(はっ、、、、な、、なんだ、、ここ、、ぅぅ、、頭痛い、、、、)

アレクセイは、ぼやけた世界を確かめていくように目を擦る。

 視界が少しずつ輪郭を結び始め、見知らぬ影を映し出した。

アレクセイ

(誰?、、この人たち、、、おばさんと、、おっさん?、、何この感覚、、重力が、、軽い?)

ふわりとした浮遊感が全身を包んでいる。アレクセイがゆっくりと体を動かす。

アレクセイ

(紐は、、されてない、、動ける、、、ナイフ、、ない、武器、、ない、、、武器?)

状況を確認しようとした、その時だった。

 急激な吐き気が、胃の底からせり上がってくる。血の匂いと、鉄の味と、拭いきれない喪失の感覚が混ざり合い、逆流した。

「うぉええええ、、、あぁ、、かっ、、はぁ、、、はぁ、、ああっぁ」

アレクセイはいきなり吐いてしまう。

 嘔吐物にまみれ、床に突っ伏して喘ぐ。その背中に、温かな感触が触れた。

マチル

「、、、大丈夫か?」

デニス

「セニョールに見せましたが問題はないとありましたけどね、この小僧は」

マチル

「ふぅむ、、、とりあえず椅子に座れ、、デニス、水持ってきてくれ」

デニス

「はいはい」

視線を上げれば、そこは広い空間だった。高い天井があるドーム型の空間。無機質な金属の光沢と、複雑な配線が壁を這っている。

アレクセイは、マチルにタオルで口を優しく拭かれ、促されるまま椅子に座らされた。

アレクセイ

「ぁ、、、、、ぁりがとうございます、、」

マチル

「で?、、、あんたの名前は?」

アレクセイ

「ぇ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、ぁ、、、俺、、は、、、アレクセイ、、、ミラーって、、言います、、、、、、、あ、、あのユーリと、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、せ、、、セロニカは?」

アレクセイは、自分でも制御できないほど震えながら尋ねる。

マチルは、その問いに一瞬だけ目を伏せ、静かに伝えた。

マチル

「、、、、ユーリってのが銀髪の男の子なら医務室で寝ている、、セロニカっていう女の子は」

アレクセイ

「、、、っ、、、、、、、ぅ、、、、、、あの、、あの、、セロニカは俺の友達で、、」

アレクセイの声が震える

「優しくて、、あのちょっと頭おかしくて、、ちょっとだけ自信過剰で、、ぇも、頑張ってて、、」

アレクセイの中で地下道で一緒に眠った時が思い出される。

「あの、、っ、、あの、、、、スタイルよくて可愛くて、、元気で、、明るくて、、、あの、、あの、、あのですね、、あの、、あの、、、、」

脳に映るは笑顔で元気であのスーパーでいきなり会った変な自称美少女。

「っ、、、女の子だけじゃ、、、、、、、、、無いんですよ!!違うんですよ!!」

そんな叫ぶアレクセイを広場に居る艦員は見つめるがアレクセイは、とめどなく溢れてくる言葉が止まらなかった。

自分でも何を言っているのか分からない。何の琴線に触れたのか、何の意図があるのかも、アレクセイには理解できなかった。

 ただ………「女の子」という記号ではなかった。それだけは、叫ばずにはいられなかった。

マチル

「はぁ、、、、分かってるよ、、、、、、、、一応蘇生は試みたが不可能だ、、人間の体はそんな頑丈じゃない、死後硬直も既にしている、一応まだカーマンラインの少し上、、地上から180kmだ、、、、宇宙葬も可能だがどうする?」

アレクセイ

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」

180km。

自分の立ち位置と、彼女が二度と動かない事実だけが、重く、軽く、心を圧迫する。

マチル

「まぁすぐ決めろとは言わないよ、、アレクセイ、、君はメアリによく似ているな、、、ユーリ、、くんの場所へ案内しよう、、ついてこい」

アレクセイ

「、、、、、、、、、セロニカ、、、、、どうしよう、、、どうしよう、、、ユーリ、、、」

アレクセイは、自分の足取りすら覚束ないまま、トボトボとマチルの後をついていった。

用語集で見る →