地下道に澱んでいた冷たい空気が、わずかに動き出す。
9時間の休息を経て、少年少女たちは再び「現実」という名の戦場へ足を踏み出す準備を整えていた。
アレクセイ
「ふぅ、、、行こうか、、、ユーニャ、セロニカ」
ユーリ
「うん、、準備は大丈夫」
セロニカ
「うん、、元気出た気がする、、大丈夫、、、、、、行ける!あたし美少女だから! 」
自分を鼓舞するように胸を張るセロニカ。
アレクセイ
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
アレクセイはふいっと空を向く。
ユーリ
「美少女、、あぁ、、まぁ、、、、うん」
ユーリの返答は、どこか歯切れが悪い。
セロニカの見た目は昨夜泣き腫らし、メイクが崩れ、到底美少女とは言い難い見た目になっていた。
目の周りは滲んだラインで黒ずみ、肌は粉塵で薄汚れている。
セロニカ
「なに?文句ある訳!?」
ユーリ
「アレクセイ?」
アレクセイ
「好きにしろって、どうせ遭難って訳じゃないんだから」
突き放すようなアレクセイの態度に、ユーリは苦笑しながら、近くにあるもので即席の洗面器を作りリュックから水をだしてセロニカに渡す。
ユーリ
「セロニカ、朝だとさっぱりした方が良いじゃない?どうぞ」
セロニカ
「ぇ、、いや私は、、、」
セロニカは受け渡された洗面器に映る自分の顔を見て急いで顔を洗う。
水面に映った凄惨な顔。それが今の「現実」を何よりも雄弁に物語っていた。
セロニカ
「ぅー化粧水ないー、乳液はー?、、美容液もない、最悪なんだけどぉぉぉ」
アレクセイ
「、、、、、、、?、、、、」
美容家電や薬剤を当たり前のように享受してきた少女にとって、それは生存に関わる問題と同じくらい重大な危機だった。
ユーリ
「まぁまぁ外出たらお風呂くらい入れるからさ」
アレクセイ
「終わった?、、、行くよ、、、方位磁針の方角的に南に行きたいからこっちだ」
セロニカ
「アレクセイはそういう情緒がないんだよねぇ、モテなかったでしょ」
ユーリ
「うーん、、、、、アレクセイは人見知りだから、、、僕がそうさせてしまったのもあるけど」
自分とアレクセイの絆の深さを、自嘲気味に語るユーリ。
三人は暗い地下通路を、互いの足音を確認しながら進んでいく。
セロニカ
「ふぅん、、、これあれね!ゲームの探索パートね!」
アレクセイ
「うっさい、そうやって声出すな、奴らにバレたらどうするんだ」
セロニカ
「、、,,,ぅ、、、はぁい、、、」
アレクセイの鋭い指摘に、セロニカが肩をすくめたその時だった。
ブゥーブゥー
沈黙を守るはずの空間に、不吉な振動音が響く。
セロニカのつけているスマートウォッチが振動する。
セロニカ
「ん?、、通知?、、、、」
ホログラムが自動で開かれ動画が再生される。
ー
『我々は聖別の火。
これを見ている者は太陽系全土の人間に知れ渡っているはずだ。
我々の要求は現皇帝ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ロマノフへの処刑である!
前皇帝アレクサンドルの血を引く者は絶やさせねばならない!!
諸君らも知っているだろう前皇帝が行った悪政を!悪行を!蛮行にして最大の愚行を!!
恨んでいるだろう、憎んでいるだろう!
案ずるな!我々聖別の火が討つのだからな!!』
音声と共に流れる映像には、破壊された学園都市アカデムグロードの街が無残に映し出されていた。
その瓦礫の下に埋まる死体。
倒壊したビル、闊歩する武装したリグマシーナギア。
あぁ、見えた。見えてしまった。
画面の端々、カメラが捉えたのは、死体を集めもせず、処理もせず、ただ放置する様を。
ー
なぜ彼らはこんな事が出来るのだろう。
なぜ彼らは悍ましいことが出来るのだろう。
セロニカ
「っ、、、、、、、、、、、、、、」
ユーリ
「断罪って言ったって、、、、なんで学園都市で、、、」
震えるセロニカと、不可解さに顔を歪めるユーリ。
アレクセイ
「、、、、、、、、、、、、、、、、,,,ぁ、、、、あ、、、はっ、、、あ、、、ぁ、、あ」
アレクセイにはそんな演説の言葉ではない、見えてしまった。
何が?
画面の隅、瓦礫の隙間に投げ出された、見覚えのある小さな手。
アレクセイが空港であげた飴を大事そう抱えている少女であったものが。
少女の希望の象徴だったはずの色とりどりの包み紙が、泥と血にまみれて、灰色の世界で唯一、悍ましく鮮やかに。
アレクセイの腰が抜ける。
膝がコンクリートを叩く音が、静かな地下道に不気味に響いた。
セロニカ
「,,,アレクセイ?,,,大丈夫?」
アレクセイ
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、わからない、、、、帰りたい、、もう、、、、」
理不尽は理解したくない現実だから理不尽なのである。
ユーリ
「、、,,,アレクス、、君の悪い癖だ、、、行くよ、、、」
立ち止まれば、そのまま思考の深淵に呑まれてしまう。
ユーリはアレクセイの手を引っ張って、無理やり彼を立ち上がらせ、進んでいく。
セロニカ
「アレクセイ?荷物持つからね?、、大丈夫?」
3人は線路を進んでいく。
