地上の焦熱が嘘のように、冷え切った空気が澱む暗い地下駐車場。
非常灯の赤い光が、規則正しく並ぶコンクリートの柱に不気味な影を落としている。
マチル
「?、、、なんだ?」
デニス
「わかりません、、、」
二人の熟練した傭兵は、本能的に大気の変調を察知した。
マチルとデニスは流れるような動作でホルスターから銃を引き抜き、互いの背後をカバーしながら太い柱の影に身を隠す。
静寂を切り裂くのは、怒鳴り散らす老人の声だ。
ある白衣姿の男が、大型トラックの背後で、荷台に積み込まれた巨大なコンテナの確認をしている。
「、、、一体なんだと言うんだ外の喧騒は!!あのテロリストどもはなんなんじゃ!!」
煤けた白衣を振り回す老人博士を、隣の助手らしき男が必死に宥めている様子が見られる。
「まぁまぁ、落ち着きましょうよ、、、ここならバレませんって博士」
博士
「はぁ!まったく!!皇帝への献上用のリグマシーナギアに傷がついたらどうするんだ!最新鋭機だぞ!さ!い!し!ん!え!い!!」
助手
「やれやれそういうところが学会に嫌われたんじゃないですか?僕も追い出されたんですよまったく」
博士
「ワシは天才だぞ!それが全精力を持って作ったのだ!!」
助手
「そのせいで研究費が高くなった結果売り払うだけでしょこれ、、最新とは名ばかりの、、」
鼻で笑う助手の言葉を、博士は顔を真っ赤にして撥ね付ける。
彼らにとって、地上の虐殺など自分の作品の価値を脅かすノイズに過ぎないのだ。
ー
マチル
(最新?、、リグマシーナギアの?、、あのトラックの荷台のやつか)
柱の陰で息を殺すマチルの瞳に、冷徹な光が宿る。
デニス
(マチル、また何か来たぞ)
デニスの合図に、マチルはわずかに視線を動かす。
マチル
(一体今度はなんだまったく)
ー
カッカッカッカッカ。
静まり返った駐車場に、硬い床を叩く甲高い革靴の音が反響する。
闇の奥から、白を基調に禍々しい赤いラインの入った宗教服を纏う男達が現れる。
その眼差しは一様に虚ろで、狂信的な光を帯びていた。
「ナシド・ウェニアス博士ですね」
博士
「誰じゃお前は」
「こほん、失礼、、、私たちはサンドル教団の者です、、そちらにある機体を皇帝に献上しようという噂を聞きましてね」
博士
「はっ、アレクサンドル前皇帝のシンパ教団か、、、」
ナシドの顔に嫌悪が走る。
旧時代の残党、かつての栄光を忘れられぬ亡霊たち。
サンドル教団の者
「えぇ、、そうですね、お渡し頂けますか?ナシド博士」
博士
「ふ、、、、、、、、、、、、やらん!」
助手
「え!?絶対これ殺されちゃうパターンですよ!良くないですって!」
助手の悲鳴のような制止も、偏屈な天才の耳には届かない。
サンドル教団の者
「はい、では交渉決裂という事で」
パァン!パァン!
まるで日常の様に、それが当たり前であるかの様に、教団の男は懐から出した銃を放つ。
乾いた音が二度、コンクリートの空間に虚しく響いた。
ナシド博士と名もなき助手は、その場で糸が切れた人形のように崩れ落ち、その命を落とす。
サンドル教団の者
「では皆さん、アレを移動させましょう!」
男が部下たちに合図を送った、その瞬間。
ガラッ
死体の山を目の当たりにした緊張からか、マチルの靴が路上の小石を無意識に蹴ってしまう。
サンドル教団の者
「ん?、、そこに誰か、、居るようで」
教団の者たちが一斉に柱の影へと銃口を向ける。
マチル
「デニス!すまん!!」
デニス
「生き残ったら絶対酒奢らせるからな!!」
隠れ続けることは不可能。
マチルは吠えるように叫び、柱の影から飛び出した。
暗い駐車場をマズルフラッシュが断続的に照らし、激しい銃撃戦が幕を上げる。
バババババババババ!!!
地下道で泥のように眠るアレクセイ達はまだ芽吹かない。
