8話:鳴り響く。耳をつく。

ドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

鼓膜を直接引き裂くような轟音が、世界のすべてを塗り替えた。

平和の象徴であったはずの巨大なビルが、内部から溢れ出した業火によって中腹からへし折れ、あまりにも呆気なく、無慈悲に、何万トンもの物理的な質量となって弾け飛ぶ。

華やかな夕闇の街は一瞬にしてオレンジ色の閃光に飲み込まれ、爆風がショーウィンドウのガラスを粉々に砕きながら、通りにいた人々を木の葉のように吹き飛ばした。

アレクセイ

 「は!?」

あまりの事態に、アレクセイの処理は追いつかない。

視界が土煙と火の粉で染まる中、横に吹き倒された親友が、焦点の合わない目で虚空を見つめていた。

ユーリ

 「、、、、、、、、、、、、、どういう、、、、、こと?」

ゥーーゥーーーーーゥウウウーーー!!!

日常を切り裂くように、けたたましい警報が鳴り響く。

アレクセイたちを含め、周囲で倒れ伏す人々の腕につけられているスマートウォッチが一斉に震えはじめ、ホログラムの緊急避難用の経路図が無機質に空中に浮かび上がる。

システムだけが正常に作動し、現実の人間たちはパニックで身動きすら取れていない。

ブゥゥゥブゥゥゥ!!

端末が激しく震え危険をつたえてくる。

その警告音にハッとしたアレクセイが顔を上げた瞬間、彼の異常な反射神経が、頭上から降り注ぐ巨大な「」を捉えた。

アレクセイ

「は?、、は!、、ちょっ、、そこあぶな!」

アレクセイが急いで声を上げるが、遅すぎた。

ビルの一部が巨大なコンクリートの塊となって崩落し、目の前で起こる現実に呆然とし、逃げることすら忘れて立ち尽くしていた人々の上に、容赦なく降り注いだ。

悲鳴を上げる間すらない。

ただ、肉と骨がひしゃげる凄惨な音だけが、土煙の向こうで響いた。

ドォォオオオン!!

轟音しか響かない世界。

やがて上がり始めた絶望の叫び声と泣き声を、さらに無機質な暴力――けたたましい銃声の音が上回っていく。

セロニカ

「こ!!こっち!!こち、、こっち来て!!!」

粉塵の中から、先ほどまで美少女を自称してはしゃいでいた赤い髪の少女が、顔を煤だらけにしながら手を振っている。

彼女もまた、突然放り込まれた戦場にパニックを起こしながら、生存本能だけで路地裏へと駆け込もうとしている。

ユーリ

 「アレクス!!!!行くよ!!」

我に返ったユーリが、血相を変えてアレクセイの腕を強く引く。

だが、アレクセイの足はコンクリートに縫い付けられたように動かない。

彼の視線は、先ほど瓦礫に押し潰された人々の下敷きから流れ出す、生々しい赤い染みに釘付けになっていた。

アレクセイ

 「!、ぇ、、いや、、でもあそこに人が、、、、ぃま、、いま、、、あそこ、、ひと、、ひとが、、きゅ、、きゅじょ、、きゅうじょ、、、」

ユーリ

 「馬鹿!!現実見ろ!!!無理だよ行くんだよ!!」

ユーリは、アレクセイの思考がフリーズしている間に彼の手を力任せに引き、セロニカが路地を走っていくのを追いかけていく。

背後で、地響きを立てて何かが通りに降り立った。

リグマシーナギア。

元々は広大な畑を耕す、農業用に開発された機体。

味気ない農耕用機械に飽きた人々が、機能美と浪漫を求めた先の機械。

だが、その強靭な駆動系は、皮肉なことに人を殺すのに最も適していた。

農耕用のクワで人を殺す様に、そのリグマシーナギアには巨大な銃が取り付けられていた。

『我々の名は!』

機体の外部スピーカーから、ヒステリックで狂気に満ちたテロリストの声明が、サイレンと爆音を切り裂いて街中に響き渡る。

背後で無差別に放たれる銃弾。

次々と倒れていく見ず知らずの人々。

自分は安全な場所にいて、退屈な日常が明日も続くと思っていた。

その傲慢な錯覚が、瓦礫と共にガラガラと崩れ落ちていく。

走りながら、アレクセイは肺の底から搾り出すように、ただ。

アレクセイ

 「意味わかんない意味わかんない意味わかんない!!なに!!なんなの!馬鹿かよ!なんなんだよ!!」

用語集で見る →