セナ
「こっちよ」
背の低いセナが、迷路のような廊下をよどみなく進んでいく。
アレクセイ
「罠じゃない?」
アレクセイは周囲の壁や天井の隅に視線を走らせ、神経を研ぎ澄ませる。
キャサリー
「罠だとしたら相当演技が上手いわね」
キャサリーが、セナのまだ震えの残る肩先を冷ややかに見つめて言った。
やがて、一行は廊下の突き当たりにある、一見何の変哲もない重厚な扉の前に辿り着く。
ユーリ
「ここは?」
セナ
「隠し金庫室」
キャサリー
「、、、、へぇ、、、」
セナがドアノブに手をかけ、何の抵抗もなく扉が開く。
カチャッ
アレクセイ
「鍵かかってないのに?」
アレクセイの訝しげな声に、セナは鼻で笑った。
セナ
「隠し金庫って言ってたでしょ」
開かれた部屋の中は、客を招くためのごく一般的な客間そのものだった。
豪奢なソファと、壁一面を埋め尽くす古めかしい本棚。侵入者が真っ先に探すであろう金庫の類は見当たらない。
セナは迷いなく壁際へ歩み寄ると、特定の装丁の本を数冊、決まった順序で手前に引いた。
カチャッ、ビッ………………チチッ………カンッ!
真鍮が噛み合うような硬質な音が響くと、床のタイルがわずかに沈み込み、壁そのものが音もなくスライドを始める。
アレクセイ
「本棚が、、、、、動いた、、、、」
キャサリー
「機械仕掛け?、、、電気じゃないの?」
キャサリーがその隙間に覗く歯車を凝視した。
セナ
「電気だと結局電磁波を出すのは隠せないからよ、、そうひいおじいちゃんが言ってた」
アレクセイ
「ふぅん、、でもじゃあなんで君の親族の金庫がここにある訳?」
アレクセイは、科学者一族としての執念を感じさせるその機構に感心する。
セナ
「元々私の家なの、、、ハジコは私のお爺ちゃんの妹の夫の従兄弟の息子の従兄弟よ」
キャサリー
「それ他人って言うんじゃない?」
セナ
「権利関係上は他人ではないそうよ、祖先の財産が大きいからね、、名前を名字にする様なセンスのない連中よ、、」
吐き捨てるようなセナの言葉。
ユーリ
「ん?、、でもさ、、、、ハジコの裏帳簿がなんで君が知ってる金庫にある訳?」
ユーリが素朴な疑問を投げかけた。セナは本棚の裏側に隠されていた小さな台座に手を伸ばす。
セナ
「家を探索して発見したそうよ、、喜んで言ったわ、、あのカスは」
アレクセイ
「そうなんだ、、、、、」
セナ
「ぁ、、あった、、これよこれ、、電子だと盗まれやすいから結局外部チップが安全だとどっかで聞き齧った様な事しか出来ない人間だもの」
セナが掲げたのは、時代遅れなほど無機質な外部保存チップだった。
最新鋭のネットワーク技術を誇る月都市において、それはいかにも中途半端な知識が生んだ、歪なセキュリティの産物だった。
キャサリー
「よし!、、、これで!」
キャサリーの瞳に、確かな希望の光が宿った。
ハジコを破滅させるための、決定的な証拠がキャサリー・ライドの手に渡る。
