豪奢絢爛な屋敷のとある一室。
重厚なカーテンの隙間から漏れる月の光を切り裂くように、苛烈な怒声が響き渡った。
「あの少女を逃した?何してるんだよ!!」
バチン!!
空気を震わせたのは、この時代にはあまりに不釣り合いな、時代錯誤な鞭の音だ。
壁際に並ぶメイドたちは、その音に弾かれたように肩を震わせる。
彼女たちは長袖と足首まで隠すロングスカートを履き、瀟洒な佇まいを見せているが、その瞳には深い絶望が沈んでいた。
(ひっ、、、、ぅぅ、、、お母さん、、、、)
男は手に持った鞭をしならせ、跪く軍兵を見下ろした。
「君に何の為に高い金払って女をあてがってると思ってんだ!?あぁ!!使えないな君は!」
軍兵
「、、、、申し開きがありません、、しかし、、、あの少年達が、、、」
「あぁ!?子供に負けたのか!僕はねぇ欲しいって言ったよね、、君に期待してるんだ、君を信頼してるんだ、だからね僕は」
軍兵は床に額を擦り付ける。
軍兵
「はい、、ありがとうございます、、、」
「分かるだろう?僕の苦しみが、、分かるだろう?裏切られた僕の痛みが、、君には期待してるんだ、、、」
鞭が振るわれるたび、少女たちは肉が打たれる音に身体を強張らせる。
軍兵
「はい、、分かります、、名誉挽回の為にもう一度私が」
「何が分かるんだよ!!!うるさいな君は!!!」
パン!
乾いた破裂音。
つい先刻まで弁明を口にしていた軍兵は、言葉の続きを紡ぐことなく、ただの物言わぬ肉塊へと変わった。
(ひっ、、、っ、、ぅぅ、、)
手に付着したわずかな汚れを払うように、冷ややかに笑った。
「ふ、、スッキリ、、あぁ、、君にしよ、、君に」
男の視線が、壁際に立ち並ぶ少女たちの群れを舐めるように動く。
彼は無造作にその中の一人の髪を掴むと、力任せに引きずり始めた。
「ぎ、、ごめんなさい、、ごめん、、辞めてください!、、、お願、、お願いします!」
「うるさいな!!知性もない知識もない金もない権力もない顔だけの女が!!黙ってろ!!」
抗議の声に応えたのは、情け容赦のない鞭の連打だった。
少女の肌は厚手の服に隠されて見えはしないが、その下に刻まれる苦痛を誰もが幻視する。
「ご、、ごめんなさい、、、ごめん、、なさい」
「あぁ、、殺すか、売るか、どっちが良い?、、、噛みつくんだもんなぁ、それ相応だもんな」
男の歪んだ慈悲に、少女は泣きながら縋る。
「なんでもします!なんでもしますからごめんなさい、、、ごめんなさい、、ごめんなさい!」
慈悲を乞う声は、髪を掴んだまま奥の暗闇へと消えていく。
直後。
ゥーゥーゥー
ゥーゥーゥー!!!
ウーウーウーウーウー!!
屋敷の静寂を、けたたましい警報が塗り潰した。
それは、偽りの平穏を強制的に終わらせる、作戦開始の合図だった。
