48話:ハジコ・カークラム

豪奢絢爛な屋敷のとある一室。

重厚なカーテンの隙間から漏れる月の光を切り裂くように、苛烈な怒声が響き渡った。

「あの少女を逃した?何してるんだよ!!」

バチン!!

空気を震わせたのは、この時代にはあまりに不釣り合いな、時代錯誤な鞭の音だ。

壁際に並ぶメイドたちは、その音に弾かれたように肩を震わせる。

彼女たちは長袖と足首まで隠すロングスカートを履き、瀟洒な佇まいを見せているが、その瞳には深い絶望が沈んでいた。

(ひっ、、、、ぅぅ、、、お母さん、、、、)

男は手に持った鞭をしならせ、跪く軍兵を見下ろした。

「君に何の為に高い金払って女をあてがってると思ってんだ!?あぁ!!使えないな君は!」

軍兵

「、、、、申し開きがありません、、しかし、、、あの少年達が、、、」

「あぁ!?子供に負けたのか!僕はねぇ欲しいって言ったよね、、君に期待してるんだ、君を信頼してるんだ、だからね僕は」

軍兵は床に額を擦り付ける。

軍兵

「はい、、ありがとうございます、、、」

「分かるだろう?僕の苦しみが、、分かるだろう?裏切られた僕の痛みが、、君には期待してるんだ、、、」

鞭が振るわれるたび、少女たちは肉が打たれる音に身体を強張らせる。

軍兵

「はい、、分かります、、名誉挽回の為にもう一度私が」

「何が分かるんだよ!!!うるさいな君は!!!」

パン!

乾いた破裂音。

つい先刻まで弁明を口にしていた軍兵は、言葉の続きを紡ぐことなく、ただの物言わぬ肉塊へと変わった。

(ひっ、、、っ、、ぅぅ、、)

手に付着したわずかな汚れを払うように、冷ややかに笑った。

「ふ、、スッキリ、、あぁ、、君にしよ、、君に」

男の視線が、壁際に立ち並ぶ少女たちの群れを舐めるように動く。

彼は無造作にその中の一人の髪を掴むと、力任せに引きずり始めた。

「ぎ、、ごめんなさい、、ごめん、、辞めてください!、、、お願、、お願いします!」

「うるさいな!!知性もない知識もない金もない権力もない顔だけの女が!!黙ってろ!!」

抗議の声に応えたのは、情け容赦のない鞭の連打だった。

少女の肌は厚手の服に隠されて見えはしないが、その下に刻まれる苦痛を誰もが幻視する。

「ご、、ごめんなさい、、、ごめん、、なさい」

「あぁ、、殺すか、売るか、どっちが良い?、、、噛みつくんだもんなぁ、それ相応だもんな」

男の歪んだ慈悲に、少女は泣きながら縋る。

「なんでもします!なんでもしますからごめんなさい、、、ごめんなさい、、ごめんなさい!」

慈悲を乞う声は、髪を掴んだまま奥の暗闇へと消えていく。

直後。

ゥーゥーゥー

ゥーゥーゥー!!!

ウーウーウーウーウー!!

屋敷の静寂を、けたたましい警報が塗り潰した。

それは、偽りの平穏を強制的に終わらせる、作戦開始の合図だった。

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