その機体は、地底の泥濘から這い出した怨念そのものだった。
テロリストたちは、崩落した残骸を眺めながら、自分たちの仕掛けた爆弾が標的を生き埋めにしたのだと、勝利の確信を持って話し合っていた。
その弛緩した空気を、大気を震わせる不吉な駆動音が切り裂いた。
瓦礫をねじ伏せて現れた漆黒の機体は、沈みゆく夕陽を浴びて、あるいは浴びた返り血によって、装甲をどす黒い赤へと染め変えていく。
それはもはや兵器という枠を越え、死神という概念の受肉だった。
「がっ!、、、、うわああああ!!きゅうえ、、、、」ブチッ
「死ねええええ皇帝に味方する悪魔めええ!!、、、ぁぐきゃ」ブツッ
通信回線から流れる断末魔が、一瞬のノイズと共に「無」へと変わる。
ブチッ、ブツッ、ブチッ、ブツッ……。
次々と途絶していく音声。
それは命の灯火が、機械的なスイッチで遮断されるかのような、無機質で圧倒的な蹂躙の記録だった。
最初は、ただ暴力だった。
赤黒い巨躯は、逃げ遅れた機体をそのまま鋼鉄の拳で殴り飛ばし、装甲ごとパイロットの肉を粉砕した。
あの機体は地面に転がっていた巨大な看板の支柱を、無造作に引き抜いた。
それを槍のように構え、あろうことか機体に深々と刺さるほどの力で、メリメリとゆっくりとコックピットを貫通させていった。
アアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
大気を引き裂くような絶叫。
それが肉声の悲鳴なのか、限界を超えて軋む機体の駆動音なのか、もはや判別すらつかない。
鼓膜を汚す不快な音が、瓦礫の街に反響する。
おかしい。
こちらは精鋭と言われた聖別の火のエリートの23機が揃っていたはずだ。
最強の盾であるはずの学園都市の憲兵隊ですら、事前の工作と爆弾で無力化したというのに。
どうして。どうして、こんなことになる。
私たちはただ、帝国の均衡を是正して、世界を正したかっただけなのに……。
そんな独りよがりな理想を嘲笑うかのように、赤黒い機体はさらなる加速を見せた。
逃げ惑う仲間たちが、反応することさえ許されない速度。
慣性は? 駆動系はどうなっている? そもそもこの装甲材質は何だ?
そんな物理的な疑問を脳が処理する前に、死が追いつく。
命が、あまりにも簡単に摘み取られていく。
「ギャアアア!!」
「俺がなんで!!」
「ちが! 私は!」
「きゃああ!!」
「父の為に僕は頑張った! なのに! なんd」
「辞めてください!! ごめ」
遮断される叫び、途切れる言葉。
あの機体の速さは、もはや地上を滑走する戦闘機のそれだ。
ありえない。人型のリグマシーナギアという骨組みが出せる出力ではない。
その猛烈な突進の勢いのまま、ある機体はビルの残骸に投げ捨てられ、衝撃で機体もろともパイロットの骨格が崩壊した。
必死に放たれた銃弾は空を切り、万一当たってもカンカンと軽快な、しかし絶望的な跳ね返りの音が響くだけだ。
加速の勢いを乗せた刺突が胴体を貫き、燃料タンクを爆発させる。
あるいは、首根っこを掴まれて執拗に振り回され、遠心力でコックピット内をシェイクされた結果、ひき肉へと成り果てたパイロットもいたはずだ。
あぁ、来た。
僕の番だ。
「ははっ、、やってやる! 俺は聖別の火一番隊アオエ・ウイ! かかってこい!」
震える声で叫び、虚勢を張る。
だが、あの悪魔はそんな名乗りすら嘲笑うように、瞬き一つの間に眼前に迫った。
機体の両肩に巨大な両手を乗せたかと思えば、そのまま想像もできない異常な出力で、地面へと押し潰していく。
「ぁれ?、、いや今のは、、決闘で、、てょ、、ちょっと待って、、」
逃げ場はない。歪んだハッチは二度と開かない。
「おんせ、、音声回線で呼び掛ければ」
『こうさ、、、こうさんするから!! ごめ、、辞めてください!』
必死の命乞い。だが、死神は慈悲など持ち合わせていなかった。
頭部のバルカンが火を吹き、機体の外部スピーカーを無慈悲に粉砕する。言葉による交渉、あるいは憐れみの追求を、物理的に拒絶した。
「アレ、、あれ、、ちが、、僕は、、地域の代表で、、父さんに褒められたくて、あの人もお金出してくれて、みんな、、みんな皇帝が悪くて、、だってアレクサンドルが悪くて、、だからその血を引くニコライは地域から資産を吸い取ってて、、だから、、ゃから、、ぢがくて」
カァン! ガァン!
容赦ない圧迫。
リグマシーナギアの剛性が限界を迎え、部品の折れる音が背筋を凍らせる。
「ちが、、おかきゃああさん!!! ごめ、、あああああ!!」
鋼鉄の棺桶が、紙細工のようにプチリと押し潰される。
その中にある命もまた、音もなく消えた。
ー
赤黒く焼けたコックピットの中で、アレクセイは血走った眼を見開き、喉を裂くような声を張り上げていた。
アレクセイ
「お前らが!!! お前らが!!!! お前らが居なければセロニカは!!!!」
絶叫と共に、さらなる出力を求めてエンジンが悲鳴を上げる。
アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
