2話:空港にて

体からだが滑走路かっそうろに接地せっちし、逆噴射ぎゃくふんしゃの振動しんどうが収おさまると、ようやく機内きないの閉塞感へいそくかんから解放かいほうされる時ときが来きた。

タラップを降おり、空港くうこうの到着とうちゃくロビーに足あしを踏ふみ入いれた途端とたん、アレクセイは大おおきく両腕りょううでを広ひろげて背中せなかを反そらせた。

アレクセイ

「ふっ、、、んーーーーー!!、、、はぁ、、、、、、、」

肺はいに溜たまった13時間分じかんぶんの淀よどんだ空気くうきを吐はき出だし、深ふかく息いきを吸すい込こむ。

だが、隣となりを歩あるくユーニャは、息いきをつく暇ひまもなく彼かれの袖そでを引ひいた。

ユーニャ

「アレクセイ、僕ぼくたちはこっちの列れつだよ」

誘導ゆうどうされた先さきは、一般いっぱんの乗客じょうきゃくが長蛇ちょうだの列れつを作つくっている入国審査場にゅうこくしんさじょうではなかった。

アレクセイたちは、何百人なんびゃくにんという人々ひとびとが溜息ためいきをつきながら並ならんでいる行列ぎょうれつの脇わきを通とおり抜ぬけ、その隣となりにある、金属探知機きんぞくたんちきすら置おかれていない無人むじんの検閲けんえつブースへと歩ほを進すすめる。

審査官しんさかん

「書類しょるいを」

座すわっていた男おとこが、感情かんじょうの消きえた声こえで手元てもとを指ゆびさす。

アレクセイ

「はい」

差さし出だされた書類しょるいに審査官しんさかんはそれを機械的きかいてきに確認かくにんし、一秒いちびょうの淀よどみもなく承認しょうにんの印いんを刻きざんでいく。

審査官

「よい3年ねんを」

アレクセイ

「そう、、、3年ねんもか、、、、家帰いえかえりたい、、、」

返かえされた書類しょるいを受うけ取とり、アレクセイはぼやく。

ふと視線しせんを感かんじて横よこを向むくと、柵さくの向むこう側がわの行列ぎょうれつに並ならぶ人ひとたちが、穴あなが開あくほどの羨望せんぼうの眼差まなざしをこちらに向むけていた。

その最前列さいぜんれつにいた、金髪きんぱつの小柄こがらな少女しょうじょがぽつりと呟つぶやく。

「いいなぁ、、」

その母親ははおやと思おもわれる女性じょせいが、どこか諦あきらめたような、現実げんじつを教おしえ込こむ低ひくい声こえで答こたえた。

「彼かれらはエリート様さまなの、私わたしたち庶民しょみんはこっち」

その言葉ことばに含ふくまれた微かすかな刺とげが、アレクセイの耳みみを叩たたく。

アレクセイ

「む、、、こっちだって好すきで」

反射的はんしゃてきに行列ぎょうれつの方ほうへ足あしを踏ふみ出だそうとする彼かれを、ユーニャが顔色かおいろを変かえて制止せいしした。

ユーニャ

「辞やめなってばアレクセイ!」

見みえない境界線きょうかいせんを越こえようとするアレクセイを、ユーニャは焦あせりながら全力ぜんりょくで引ひき止とめる。

少女しょうじょ

「お兄にいちゃんは頭良あたまいいの?」

アレクセイは足あしを止とめ、少女しょうじょの瞳ひとみを真まっ直すぐに見返みかえした。

アレクセイ

「俺以外おれいがいが馬鹿ばかだっただけだ、俺おれが頭良あたまいい訳わけじゃない」

少女しょうじょ

「ふぅん」

そのやり取とりの最中さなか、アレクセイは腰こしのポーチに手てを伸のばすと、中なかに入はいっていた大量たいりょうの飴あめを掴つかみ出だし、そのまま少女しょうじょの手てに押おし付つけた。

ユーニャ

「君きみってやつはまた、、、、おばさんが怒おこるよ!」

ユーニャが声こえを上あげるが、アレクセイはそれを聞きき流ながす。

アレクセイ

「どうせ三年さんねんは故郷こきょうに帰かえれないし、知しらないよ、母かあさんなんて」

ユーニャ
「まだ拗すねてる、、、」

少女しょうじょ

「ありがと!」

アレクセイ

「、、、、、、うん、、、、、、じゃあね」

礼れいを言いう少女しょうじょに短みじかく答こたえると、アレクセイは背せを向むけた。

二ふた人はそのまま手荷物受取所てにもつうけとりじょで荷物にもつを回収かいしゅうし、空港くうこうの出口でぐちへと向むかって歩あるき出だす。

自動じどうドアの向むこうには、これから過すごすことになる景色けしきが広ひろがっているはずだ。

賑にぎやかなロビーの喧騒けんそうを背中せなかで聞ききながら、アレクセイは心こころの中なかで毒どくづいた。

アレクセイ

(、、、、、、、、、、、、、生うまれで僻ひがまれちゃたまんないよ、、)

アレクセイが振ふり返かえって少女しょうじょに手てを振ふり返かえす。
少女しょうじょは大おおきく手てを振ふってアレクセイを見送みおくっている。

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