体が滑走路に接地し、逆噴射の振動が収まると、ようやく機内の閉塞感から解放される時が来た。
タラップを降り、空港の到着ロビーに足を踏み入れた途端、アレクセイは大きく両腕を広げて背中を反らせた。
アレクセイ
「ふっ、、、んーーーーー!!、、、はぁ、、、、、、、」
肺に溜まった13時間分の淀んだ空気を吐き出し、深く息を吸い込む。
だが、隣を歩くユーニャは、息をつく暇もなく彼の袖を引いた。
ユーニャ
「アレクセイ、僕たちはこっちの列だよ」
誘導された先は、一般の乗客が長蛇の列を作っている入国審査場ではなかった。
アレクセイたちは、何百人という人々が溜息をつきながら並んでいる行列の脇を通り抜け、その隣にある、金属探知機すら置かれていない無人の検閲ブースへと歩を進める。
審査官
「書類を」
座っていた男が、感情の消えた声で手元を指さす。
アレクセイ
「はい」
差し出された書類に審査官はそれを機械的に確認し、一秒の淀みもなく承認の印を刻んでいく。
審査官
「よい3年を」
アレクセイ
「そう、、、3年もか、、、、家帰りたい、、、」
返された書類を受け取り、アレクセイはぼやく。
ふと視線を感じて横を向くと、柵の向こう側の行列に並ぶ人たちが、穴が開くほどの羨望の眼差しをこちらに向けていた。
その最前列にいた、金髪の小柄な少女がぽつりと呟く。
「いいなぁ、、」
その母親と思われる女性が、どこか諦めたような、現実を教え込む低い声で答えた。
「彼らはエリート様なの、私たち庶民はこっち」
その言葉に含まれた微かな刺が、アレクセイの耳を叩く。
アレクセイ
「む、、、こっちだって好きで」
反射的に行列の方へ足を踏み出そうとする彼を、ユーニャが顔色を変えて制止した。
ユーニャ
「辞めなってばアレクセイ!」
見えない境界線を越えようとするアレクセイを、ユーニャは焦りながら全力で引き止める。
少女
「お兄ちゃんは頭良いの?」
アレクセイは足を止め、少女の瞳を真っ直ぐに見返した。
アレクセイ
「俺以外が馬鹿だっただけだ、俺が頭良い訳じゃない」
少女
「ふぅん」
そのやり取りの最中、アレクセイは腰のポーチに手を伸ばすと、中に入っていた大量の飴を掴み出し、そのまま少女の手に押し付けた。
ユーニャ
「君ってやつはまた、、、、おばさんが怒るよ!」
ユーニャが声を上げるが、アレクセイはそれを聞き流す。
アレクセイ
「どうせ三年は故郷に帰れないし、知らないよ、母さんなんて」
ユーニャ
「まだ拗ねてる、、、」
少女
「ありがと!」
アレクセイ
「、、、、、、うん、、、、、、じゃあね」
礼を言う少女に短く答えると、アレクセイは背を向けた。
二人はそのまま手荷物受取所で荷物を回収し、空港の出口へと向かって歩き出す。
自動ドアの向こうには、これから過ごすことになる景色が広がっているはずだ。
賑やかなロビーの喧騒を背中で聞きながら、アレクセイは心の中で毒づいた。
アレクセイ
(、、、、、、、、、、、、、生まれで僻まれちゃたまんないよ、、)
アレクセイが振り返って少女に手を振り返す。
少女は大きく手を振ってアレクセイを見送っている。
