37話:力はより強い者にひれ伏す呪い

月都市の冷たい空気が、肌を刺す。

新しい身分を手に入れたばかりの少年たちの前に広がっていたのは、月特有の歪んだ秩序だった。

「きゃ、、辞めてください!」

「ハジコ様の命令だ、、ついて来てもらおうか」

「いやぁ!誰か!!」

不意に響いた悲鳴。路地を曲がった先で、軍人と思しき男たちが一人の少女を取り囲んでいた。

その強引な手つきは、保護という名目には程遠い。

アレクセイは反射的に目を伏せた。関わりたくない。それだけ。

逃げるようにマチルの影へと身を隠した。

だが、隣にいた少年の導火線は、すでに限界を超えていた。

ユーリ

「おい!!そういうのはダメだろ!!」

声を張り上げ、迷いなく軍人の群れへと突き進んでいく。

軍人

「ん?、、、なんだお前は、、」

ユーリ

「嫌がってる事をしたらいけないんだよ、どうして女の子にそう酷い事を出来る!」

軍人を睨みつけるユーリの瞳には、連れ去られようとする少女の姿にセロニカの面影が重なって映っていた。

マチル

「あのバカ、、、おい、、アレクセイ、、ユーリはあぁいう感じなのか?」

呆れたように吐き捨てるマチルに、アレクセイは震える声で応える。

アレクセイ

「、、、、、あぁいう感じ、、、ユーリは、、、」

マチル

「お前はお前で暗過ぎるだろ、、なんなんだよ、、」

均衡の取れない二人を前に、マチルは頭を抱えた。

その間にも、ユーリは軍人に食い下がる。

ユーリ

「どうして彼女を連れてくんです!」

軍人

「ハジコ様の命令だからさ」

ユーリ

「人に言われたら人が嫌がる事してもいいんですか!なんですか!この子が盗みや凶悪犯罪者なんですか!」

軍人

「、、、、、、、、、、、よそ者か、、ふん、、、どこから来た」

ユーリ

「地球ですけど?」

その言葉に、少女が驚いたように顔を上げた。

軍人

「ほぉ、、地球か、、地球ね、、地球格差を知らずに生活出来る産まれながらのエリート様じゃないか、、それなら1号のガガーリンにでも行けば良いんじゃないのか?」

ユーリ

「む、、そういう詭弁を、、」

軍人

「、、、、安寧とは一人を生贄に99人が得るギブアンドテイクだ、、、黙っていなさい」

少女

「きゃ!、、ちょ、、辞めて、、誰か!誰か!!」

無機質な選別。少女は再び拘束され、ずるずると引きずられていく。

ユーリ

「だからって!ならあんたが生贄になれば良いだろ!!」

感情に任せて殴りかかるユーリ。

だが、訓練された軍人にとって、素人の拳をかわすのは容易かった。

軽くあしらわれたユーリの顔面に、容赦のない膝蹴りが叩き込まれる。

ユーリ

「っあ、、ぅ、、、、」

地面に転がるユーリを一瞥もせず、男たちは少女を連れて歩き出した。

その先には、荒廃した月の風景に不釣り合いなほど豪奢な城がそびえ立っている。

その瞬間、マチルの隣から黒い影が飛び出した。

アレクセイが、空気を切り裂くような速度で軍人の顔面に膝蹴りを叩き込む。

アレクセイ

「ユーニャを殴ったな!!」

軍人

「っあ!?、、なんだこのガキ!公務執行妨害だぞ!!」

アレクセイ

「ならユーリが話した時点で公務は妨害されてるはずだ!」

軍人

「人の情けを」

アレクセイ

「情けは人のためじゃ無い保身の為だろ!!」

吠えるアレクセイ。

殴りかかってくる軍人三人を、流れるような動作で次々と打ち倒していく。

倒れた軍人の腰から迷わず警棒を奪い取ると、アレクセイはその瞳に焔を宿して振り下ろした。

軍人

「な、、なに!?」

アレクセイ

「血だよ!!そうやって自分で痛みを受けないから怖さがわかんないだろ!!、、っうう、、、、お前らが戦わないからセロニカは!!」

軍人

「な、、何を言ってるんだお前は!」

混乱する軍人たちの言葉など、もう届かない。

アレクセイは怒りと悲しみのままに警棒を振るい、4人の大人をあっという間に無力化してしまった。

少女

「え、、と貴方は?」

まるで御伽噺の王子様にでも救われたかのように、少女が震える手をアレクセイへと伸ばす。

だが、アレクセイはその手を無情に無視した。

一瞥もくれず、ただ地面に倒れた親友のもとへと駆け寄る。

アレクセイ

「ユーニャ、、何してるんだよ、、君まで死んだら俺は、、、」

ユーリ

「、、、、、アレクス、、、、、、、、」

守りたいものだけを見つめるアレクセイの必死な声。

その刹那、静寂を切り裂くような高音がドーム内に響き渡った。

ウゥウウウン……………ウウウウウゥゥウウウ!!

マチル

「、、、、、、、、、、無駄な正義感と、抑えきれない衝動かい、、若いね、、こっちに来な!アレクセイ!ユーリ!そこの女の子も!」

非常事態を告げるサイレン。

マチルの鋭い号令に弾かれたように、アレクセイとユーリ、そして呆然としていた少女は、暗い路地の奥へと駆け出していった。

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