36話:木を隠すなら森の中

カチッ………ピー……ピピッ

身分偽装屋の薄暗い一室に、電子機器の無機質な作動音が響く。

重厚なサーバーラックのような機械の隣で、一人の女性が、ホログラムディスプレイから視線を外さずに動かしていく。

その前には、自分の存在がデータ上で書き換えられていく実感を伴わないまま、アレクセイ達が立ち尽くしている。

「はい完了、、代金は一人50万ワルドで」

マチル

「はいはい」

マチルは慣れた手つきで支払いを済ませる。

その額の大きさと、作業のあまりの呆気なさに、アレクセイとユーリは顔を見合わせる。

アレクセイ

「え、、、、今ので?、、、、」

ユーリ

「ぼったくりじゃ、、、」

「また変なの拾ったね、どうするんだい? 子供達をまた」

女性がようやく椅子を回転させ、マチルを真っ直ぐに見据えた。

マチル

「チェニカ、回数は?」

チェニカ

「2回」

マチル

「ふぅん、、、、、、ま、、、だろうね、、」

アレクセイ

「、、、、、2回?」

何についての回数なのか、アレクセイとユーリには見当もつかない。

チェニカ

「なに? なんかあんのこの子供達、ニュースを賑わせてるけど」

マチル

「深入りは良くないだろ? それとも何か? 恩を今ここで利息含めて全部回収するか?」

チェニカ

「さぁ? 、、、二十年前に助けてもらったことは感謝してる、、でも面白くないよ、、今のアンタ」

その緊張感を壊したのは、チェニカの傍らに控えていた少年の声だった。

「チェニカ様ぁ、、、、その小言ももう702回目ですよ? 、、どんだけ未練タラタラなんですか」

チェニカ

「るっさい黙ってろ、ロミィ」

ロミィ

「でもですね、20年間ずっと会う度に言ってるチェニカ様はぁ未練たっぷりのしょうもない諦めきれない女みたいじゃ無いですか?」

アレクセイ

「!、、、、、、、ヒューマノイド、、、、、脳の転反射だから、、禁止されたはずじゃ、、、」

帝国が人道上の理由で厳格に禁じた禁忌の技術だ。

チェニカ

「そこのガキ、、口出すんなら突き出すよ」

アレクセイ

「す、、、すみません、、、」

チェニカの鋭い一喝に、アレクセイは反射的に謝り、口を噤む。

マチル

「じゃあな、、身体に気をつけろよ」

チェニカ

「るっせ!! ババァ!!」

ロミィ

「その捨て台詞は129回目ですね! 次で130回目ですよ!」

背後で続く、精密なヒロイドによる無機質なカウント。

その奇妙な喧騒と、古びた機械が放つ熱気のこもった部屋を、アレクセイとユーリは逃げるように出ていく。

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