29話:破壊の女神

アレクセイの咆哮が、夕焼けに溶け始めた戦場を震わせていた。

漆黒に赤熱した機体は、アレクセイの剥き出しの神経と化した破壊の権化だった。

「セロニカは俺の友達だった!! セロニカは生きて帰るって話だったんだよ!!!」

その叫びと共に、リグマシーナギアが地を蹴る。

逃げ遅れたテロリストの機体を鷲掴みにし、重力と怒りを叩きつけるように、感情のまま地面に叩き伏せる。

ガァンガァンガァン!!

鋼鉄の腕が何度も往復し、敵機をただの歪んだ金属の塊へと変えていく。

アレクセイの瞳には、もはやモニターの数値も敵の陣形も映っていない。

そこにあるのは、失われたはずの笑顔と、奪われた時間の残滓だけだ。

「なんでお前らはそうやって外から人を殺せるんだよ!! いないんだろ!! この中に!!」

ガッッァアアアアアアン!!

左右から迫る二体の機体を、アレクセイはそれぞれ片手で掴み取った。

異常な出力がフレームを軋ませ、そのまま二機を激突させて押しつぶす。

挟まれたコックピットがひしゃげ、電子火花が散る。

「っ、、、友達だった、、初めて出来たんだよ、、この街で!!、、、初めて出来た友達だよ!! 俺の!!」

それは、天才と呼ばれ孤独を歩んできた彼が、ようやく手に入れた普通だった。

逃げ惑うテロリストたちが背を見せて離脱を図る。

だが、アレクセイの加速は彼らを逃さない。

手にした標識の支柱を、槍のように構えて突き出した。

加速の慣性をすべて乗せた一撃が、逃走する敵機の胸部を深々と貫く。

「どうして暴れられる!! どうして人を殺せる!! どうしてお前達はここで何人殺したんだよ!! ここでやる意味があったのかよ!!」

支柱を引き抜き、さらなる獲物を求めてアレクセイは暴れ狂う。

「死ねよ!死ね死ね死ね!どうせ遠隔なんだろ! 痛み感じないんだろ! だから出来ないんだろ!! なんで出来ないんだよ!! 人の痛みを!!! 人の感情を!!」

アレクセイの言葉は、破壊の音に混じって空虚に響く。

最後の一機。それはすでに交戦意思を失い、後ずさりながら武器を捨てていた。

だが、アレクセイの機体はその両肩を掴み、逃げ場を塞いで押し潰していく。

何事かを乞うように震えたスピーカーを、頭部のバルカンが無慈悲に粉砕した。

謝罪も、弁明も、最期の言葉も、アレクセイは一切を許さない。

静寂が、唐突に訪れた。  足元には、原型を留めない二十数機の残骸。

「、、、、、、、、、、、、、、、、はぁ、、はぁ、、っ、、、はぁ、、はぁ、、、ぅぅうう、、、、うううううううううああああああああああああああ」

それは慟哭か、剥き出しの感情か。過負荷に耐えかねた駆動音か、歯車の軋みか。

 

アレクセイの魂が、機械という器から溢れ出し、崩壊を告げるように響き渡る。

パタパタパタパタパタパタパタ

空気を切り裂くローターの音が聞こえる。

夕闇の空を背に、複数の軍用ヘリが急速に高度を下げてくる。

『ガンマ隊カルスレイグスト第一空挺部隊降下! そこのリグマシーナギア! 戦闘をやめなさい!』

スピーカーから響く威圧的な警告。  

だが、その声はアレクセイの耳には届かない。

届くにはあまりにも遅い。

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