27話:懲悪

その機体は、地底の泥濘から這い出した怨念そのものだった。

テロリストたちは、崩落した残骸を眺めながら、自分たちの仕掛けた爆弾が標的を生き埋めにしたのだと、勝利の確信を持って話し合っていた。

その弛緩した空気を、大気を震わせる不吉な駆動音が切り裂いた。

瓦礫をねじ伏せて現れた漆黒の機体は、沈みゆく夕陽を浴びて、あるいは浴びた返り血によって、装甲をどす黒い赤へと染め変えていく。

それはもはや兵器という枠を越え、死神という概念の受肉だった。

「がっ!、、、、うわああああ!!きゅうえ、、、、」ブチッ

「死ねええええ皇帝に味方する悪魔めええ!!、、、ぁぐきゃ」ブツッ

通信回線から流れる断末魔が、一瞬のノイズと共に「無」へと変わる。

ブチッ、ブツッ、ブチッ、ブツッ……。

次々と途絶していく音声。

それは命の灯火が、機械的なスイッチで遮断されるかのような、無機質で圧倒的な蹂躙の記録だった。

最初は、ただ暴力だった。

赤黒い巨躯は、逃げ遅れた機体をそのまま鋼鉄の拳で殴り飛ばし、装甲ごとパイロットの肉を粉砕した。

あの機体は地面に転がっていた巨大な看板の支柱を、無造作に引き抜いた。

それを槍のように構え、あろうことか機体に深々と刺さるほどの力で、メリメリとゆっくりとコックピットを貫通させていった。

アアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!

大気を引き裂くような絶叫。

それが肉声の悲鳴なのか、限界を超えて軋む機体の駆動音なのか、もはや判別すらつかない。

鼓膜を汚す不快な音が、瓦礫の街に反響する。

おかしい。

こちらは精鋭と言われた聖別の火のエリートの23機が揃っていたはずだ。

最強の盾であるはずの学園都市の憲兵隊ですら、事前の工作と爆弾で無力化したというのに。

どうして。どうして、こんなことになる。

私たちはただ、帝国の均衡を是正して、世界を正したかっただけなのに……。

そんな独りよがりな理想を嘲笑うかのように、赤黒い機体はさらなる加速を見せた。

逃げ惑う仲間たちが、反応することさえ許されない速度。

慣性は? 駆動系はどうなっている? そもそもこの装甲材質は何だ?

そんな物理的な疑問を脳が処理する前に、死が追いつく。

命が、あまりにも簡単に摘み取られていく。

「ギャアアア!!」

「俺がなんで!!」

「ちが! 私は!」

「きゃああ!!」

「父の為に僕は頑張った! なのに! なんd」

「辞めてください!! ごめ」

遮断される叫び、途切れる言葉。

あの機体の速さは、もはや地上を滑走する戦闘機のそれだ。

ありえない。人型のリグマシーナギアという骨組みが出せる出力ではない。

その猛烈な突進の勢いのまま、ある機体はビルの残骸に投げ捨てられ、衝撃で機体もろともパイロットの骨格が崩壊した。

必死に放たれた銃弾は空を切り、万一当たってもカンカンと軽快な、しかし絶望的な跳ね返りの音が響くだけだ。

加速の勢いを乗せた刺突が胴体を貫き、燃料タンクを爆発させる。

あるいは、首根っこを掴まれて執拗に振り回され、遠心力でコックピット内をシェイクされた結果、ひき肉へと成り果てたパイロットもいたはずだ。

あぁ、来た。

僕の番だ。

「ははっ、、やってやる! 俺は聖別の火一番隊アオエ・ウイ! かかってこい!」

震える声で叫び、虚勢を張る。

だが、あの悪魔はそんな名乗りすら嘲笑うように、瞬き一つの間に眼前に迫った。

機体の両肩に巨大な両手を乗せたかと思えば、そのまま想像もできない異常な出力で、地面へと押し潰していく。

「ぁれ?、、いや今のは、、決闘で、、てょ、、ちょっと待って、、」

逃げ場はない。歪んだハッチは二度と開かない。

「おんせ、、音声回線で呼び掛ければ」

『こうさ、、、こうさんするから!! ごめ、、辞めてください!』

必死の命乞い。だが、死神は慈悲など持ち合わせていなかった。

頭部のバルカンが火を吹き、機体の外部スピーカーを無慈悲に粉砕する。言葉による交渉、あるいは憐れみの追求を、物理的に拒絶した。

「アレ、、あれ、、ちが、、僕は、、地域の代表で、、父さんに褒められたくて、あの人もお金出してくれて、みんな、、みんな皇帝が悪くて、、だってアレクサンドルが悪くて、、だからその血を引くニコライは地域から資産を吸い取ってて、、だから、、ゃから、、ぢがくて」

カァン! ガァン!

容赦ない圧迫。

リグマシーナギアの剛性が限界を迎え、部品の折れる音が背筋を凍らせる。

「ちが、、おかきゃああさん!!! ごめ、、あああああ!!」

鋼鉄の棺桶が、紙細工のようにプチリと押し潰される。

その中にある命もまた、音もなく消えた。

赤黒く焼けたコックピットの中で、アレクセイは血走った眼を見開き、喉を裂くような声を張り上げていた。

アレクセイ

「お前らが!!! お前らが!!!! お前らが居なければセロニカは!!!!」

絶叫と共に、さらなる出力を求めてエンジンが悲鳴を上げる。

アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!

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