賑やかな目抜き通り。
アレクセイたちが「都会、怖い」と軽口を叩きながら通り過ぎていくその傍らで、時間の流れから取り残されたような一角があった。
歩道にせり出したカフェのテラス席。
洗練された都会の午後に溶け込むようにコーヒーを嗜む女性と、その場に似つかわしくない、むさ苦しいほどにガタイの良い男が向かい合っている。
男は周囲を警戒するように声を潜め、女性へと問いかけた。
「マチル、、本当に奴らは現れるのか?」
マチルと呼ばれた女性は、静かにコーヒーを飲み干して一息つく。
その横顔には、戦いの中に身を置き続けてきた者の、深い疲労と諦念が刻まれていた。
マチル
「、、、、知らないよ、、そもそも私らの目的は休暇だろ?、そうやって任務ばっか考えんなよデニス」
デニス
「そう言われてもねぇ、、休暇ってよりは厄介払いでしょこれ」
マチル
「ナガリのガキが幹部連中抱き込んだから仕方ないだろ」
デニス
「で?どうします?本当に休暇で良いんですか?アイツらにはなんて言います?」
デニスの焦燥を、マチルは視線すら合わせずに受け流す。
マチル
「さぁ?悪逆皇帝アレクサンドルが死んだのももう20年前だ、、どうしようもないよレジスタンスは」
デニス
「ですが現皇帝ニコライが愚を犯す可能性も!、、、、」
デニスの声がわずかに大きくなり、周囲の客たちがギョッとしたような目を二人に向けた。
不穏な単語が、平和な街の空気を震わせる。
マチル
「さぁ?、、、地方に自治権配って金集めるだけのお役所様だろあの王様」
デニス
「レジスタンスとして」
マチル
「うるさいよ、、、レジスタンス、レジスタンス、レジスタンスってったく、、それをしてなんの意味があるってんだい?、、、お前はその先に何を見る」
デニス
「平和な世の中です」
デニスの真っ直ぐな言葉に、マチルは窓の外の景色――アレクセイたちが歩き、学生たちが笑い合う、整備された街並みへと視線を投げた。
マチル
「何が見えるお前の目に、、この街はどう見える、、、」
デニス
「平和ですね」
マチル
「そ、、なら良いのさ、、私達の物語はおしまい、、解散出来ずにダラダラやって傭兵の真似事してんのがあたしらってこと」
デニス
「、、、、、、、はぁ、、、、分かってますよ、、、、、ウィスキーを一つ!」
「はーい!5分ほどお待ちくださーい!」
店員の明るい声が、二人の重苦しい空気をなぞるように響く。
マチルはそっと、首から下げていた古びたロケットペンダントを手に取り、その蓋を開いた。
色褪せた写真が一枚。
朗らかな笑みを浮かべる男性と、その男性に肩を寄せる、今よりずっと若く柔らかな表情をしたマチル。
そして、彼女の腕の中には、まだ乳離れもできていない赤子が抱かれていた。
マチル
「、、、、、、ふ、、、、、カニアス、、、、ミィナ、、、、、、、、、、、はぁぁ」
漏れ出たのは、祈りとも呪いともつかない溜息。
デニス
「酒でも飲んだほうがいい、、、マチル」
デニスがそう言いかけ、マチルが顔を上げようとした、その瞬間だった。
いつもの日常が、これから始まる日常が、いつまでも続くと信じていたものが
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
鼓膜を直接引き裂くような轟音が、世界のすべてを塗り替えた。
平和の象徴であったはずのビルが、
内部から溢れ出した業火によって、
あまりにも呆気なく、無慈悲に、物理的な質量となって弾け飛んだ。
