ユーリ
「ふぅん、、それでそのアドナンスクライシスがどうしたの?」
ユーリはリブラの隣に腰を下ろし、彼女の震える肩を見つめた。
リブラ
「ぅぅ、、、あの組織は人を攫っては実験を繰り返して果ては脳改造まで、、、」
リブラは顔を覆い、指の隙間から漏れる声で言葉を繋いだ。
ユーリ
「、、、、、、、、、えぇ、、、、、科学倫理規範破ってるからバレたら学会追放だし、そもそも逮捕だよ、、それ、、、」
ユーリは腕のデバイスを操作し、法典のログを呼び出そうとしたが、途中で指を止めた。
リブラ
「彼らは隠された組織なのです!人を攫っては実験を繰り返すのです!!」
リブラは顔を上げ、ユーリの胸元を掴んで叫んだ。
マチル
「陰謀論だな」
マチルは壁に後頭部を預け、天井の配管を見上げた。
ユーリ
「でも実際リブラちゃんのお兄さんは連れ去られてるんですよ?」
ユーリはマチルを振り返り、リブラの背中に手を添えた。
マチル
「ふぅむ、、、、、、、人身売買か?、、そっちの線が濃そうだ、、人体実験なんてもんはまともな感性じゃ出来ん」
マチルはポケットから空の煙草の箱を取り出し、指先で潰した。
ユーリ
「まともな人がやれる理由は?」
マチル
「国家が大義を作るか、科学が神となった、どっちかだろう、どっちにしろ理性が働くのなら出来る訳がないよ」
マチルは潰した箱を放り、ユーリの瞳を覗き込んだ。
ユーリ
「、、、、、、、なんでそう言えるんです?」
マチル
「人間は報復応答性の理を宗教に預けて踏み倒せるから残虐になれる」
マチルは一歩踏み出し、地面の小石を靴底で踏みつけた。
ユーリ
「、、、、ほうふく、、、おうとうせい?」
マチル
「ま、殴られたら殴り返すだろ?押された分だけ跳ね返る。それは本人から返って来る訳でもないしもしかしたら自分には返って来ないかもしれない」
マチルは踏みつけた小石を蹴り飛ばした。
ユーリ
「、、、、、、、だから」
マチル
「もし親を殺された子供がその人物を殺しに行った場合その人物は子供を残して幸せに死んでいた場合どうする?」
マチルはユーリの目の前で足を止めた。
ユーリ
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、知りませんよ、、、そんな気持ち」
ユーリは視線をそらし、路地の奥にある闇を見つめた。
マチル
「その子供を殺すのさ、、報復ってのは何も人間に限った事じゃ無い、熱いものに触ったら火傷する、鋭いものを触ったら切れる、硬いものを殴ったら打撲する、それくらい普遍で応答的な話を宗教に預けるからさ」
マチルは両手を広げ、周囲を囲む高い壁を示した。
ユーリ
「、、、、、、随分と、、、お詳しいんですね、、、」
ユーリはマチルの手首に巻かれた古びたバンドを凝視した。
マチル
「、、、、、、アレクサンドルのシンパとやりやったからな」
マチルは静かに腕を下ろした。
ユーリ
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、いけない人間でしたか?シンパは」
ユーリはマチルの表情を伺うように、下から覗き込んだ。
マチル
「さぁ、、、でも滅んだ、、、それが事実だ」
マチルは背を向け、路地から通りへと歩き出した。
ユーリ
「そう、、、、、ですか、、、」
ユーリはリブラを立ち上がらせ、マチルの後ろ姿を追って歩き出した。
