カチャ、と無機質な音を立てて、重い鉄扉が開かれた。
冷たい取り調べ室の空気の中に、カナリアの鋭い視線が突き刺さる。
カナリア
「君がキャサリー・ライドか?」
キャサリー
「、、は、、、はい!、、、私がキャサリーです!」
軍服の襟を正し、キャサリーは精一杯の虚勢を張って答えた。だが、その指先は微かに震え、膝の上で固く握りしめられている。
カナリア
「(、、、、、、、緊張、汗、、、目の泳ぎ、、、これまた面倒な)」
カナリアは内心で溜息をつき、威圧感を削ぐようにキャサリーの正面の椅子に深く腰を下ろした。
キャサリー
「はい、、あの、、私は」
カナリア
「待て、、一旦落ち着け、君は何者だ」
キャサリー
「、、、、今回の事件の首謀者を知っています」
カナリア
「ほぉ、、、、、それで、裏帳簿と、、、ハジコの関係者か?」
カナリアの探るような問いに、キャサリーは意を決して顔を上げた。
キャサリー
「いえ、、、違います、、、カナリア・エロクサム大佐、、、マチル・リリーという名に聞き覚えはありませんか」
カナリア
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、チッ、、、、、はぁ、、、なるほど、、、」
その名が出た瞬間、カナリアの表情から余裕が消え、深い忌々しさが取って代わった。
レジット
「司法取引っすね、、また、、、、、、、はーい、、、、、、、、、、出て行きますよ」
傍らにいたレジットが肩をすくめ、空気を読んで部屋を後にする。
カナリア
「、、、、、、、、どこでその名を、、、いやどうせ君を巻き込んだ、、、、、、、、、あぁ、、、アイツの事だ、、、はぁ、、、」
キャサリー
「えぇとこの紙を渡す様にと、、、」
キャサリーがおずおずと差し出したのは、殴り書きのメモだった。
『Ну, дальше за тобой!』
カナリア
「、、、、、、、、だろうなぁ!!んな事ったろうって思ったよ!、、、、はぁぁぁ」
カナリアは頭を抱えた。放り投げられた、あまりに無茶なパス。
キャサリー
「えっ、、えと、、、そのすみません、、私それなんて書いてあるか知らなくて、、、」
カナリア
「おまじないだよ、、ただの、、、で、、それが渡されたって事は、、君は信用出来るのか、、はぁ、、なるほど、、、それで、、何をしたい」
キャサリー
「私をこの月都市13号アポロの首長になる協力をしてください、皇帝陛下への陳情カナリア大佐ならお目通りが叶うとお聞きしました」
カナリア
「18だろう、、君がする理由は?」
カナリアの視線が、少女の野心を値踏みする。
キャサリー
「ここには私の家族も友人も信頼出来る教師も、顔見知りの店員も、何もかも居ます、、今はこんな汚職が蔓延って暗い街でしたが本当は違うんです、、、それを知らない外から来た役人を信用出来るほど私は我慢が出来ないのです」
キャサリーの声に、先ほどまでの怯えではない、確かな熱が宿った。
カナリア
「理由になってないな、実力もない、信用もない、家も血筋も実績もない君が何故首長になれる?」
キャサリー
「私の家は数100年前に分家したとはいえ、ライド家です、それにハジコ・ルイとは元々ケーニッヒ・クラムの遠縁も遠縁、他人を登用した結果が現状です、、、中央の不手際ではありませんか?」
捨て身の反論。帝国の管理責任を問うその言葉に、カナリアの口角がわずかに動いた。
カナリア
「、、、、、、、、、、、、ならばどうする?」
キャサリー
「質問に質問で返すのはあまり出来た行為ではありません、私は首長になってこの街を豊かにします、、、皇帝陛下は自治権が要らないのでしょう?」
カナリア
「、、、、、、ふ、、、くく、、、不敬罪だ、、、、、よく無いよ、、、そうやって外で言うのは、、弱みを見せるな、、、」
カナリアは声を殺して笑った。無鉄砲で、傲慢で、けれど誰よりもこの街を愛している少女。
キャサリー
「へ、、、っ、、、はい、、、」
カナリア
「良いだろうやってやるよ、、頑張れよ、、キャサリー」
灰色の取り調べ室に、新しい時代の産声のような、不思議な活気が一瞬だけ満ちる。
