キャサリー
「、、、、、待って、、お願い、、、待ってよ、、、、」
縋り付くようなキャサリーの声に、アレクセイは無機質な表情のまま足を止めた。
アレクセイ
「、、、、、?、、、、、なんかあるの」
キャサリー
「私、、わたしさ、、友達居るし親友居るしクラスメイトと本当は仲悪い訳じゃ無いし別にそこまでストイックじゃないし全然出来ないしダメだし、無理、、無理なのよ!」
堰を切ったように溢れ出す言葉。それは、これまで彼女が美しい自信のある自分を演じるために張り巡らせてきた虚勢の、あまりに無惨な崩壊だった。
アレクセイ
「、、、、、、いきなりどうしたの?」
キャサリー
「なんかめっちゃ不謹慎だし、良く無いのは分かってるけど、、楽しかった、、、ここ半日がどうしようもなく楽しかった!!」
アレクセイ
「、、、、、、、、、、、、、そう」
キャサリー
「嫌う?嫌だよね、、、、っ、、、、、、、だってさ、、死んだ人は居ないけど、、怪我人たくさんいるし、骨折とか色々あるじゃん!良く無いじゃん!だからさ!あのさ!!」
自責の念と、高揚感。矛盾する二つの感情に引き裂かれながら、彼女は必死にアレクセイの瞳に自分を繋ぎ止めようとする。
アレクセイ
「それで?」
キャサリー
「っ、、、、私を連れてって、、、お願い」
頭上には、空気の層に邪魔されることのない剥き出しの宇宙が広がっている。
遠く輝くのは、月都市から見えるどの光よりも一層と輝き放つは金の星。
その冷徹なまでの美しさが、二人の間に漂う沈黙を際立たせた。
アレクセイ
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
キャサリー
「、、、、っ、、、ぅ、、、、、、」
アレクセイ
「無理だよ」
キャサリー
「っ、、、、、ぅ、、、、、ま、、、、ぁ、、、はは、、、そ、、だよね、、、分かってる、、分かってた、、、うん、、、まぁ、、うん、、、」
拒絶の言葉は鋭利な刃となって、彼女の心を切り裂いた。
キャサリーは震える手でアレクセイの肩を掴むと、荒々しく彼を背後の木へと押し付けた。
キャサリー
「、、、じゃあさ、、じゃあアレクセイ、、、私が貴方が欲しいって言ったらどうなの?」
アレクセイ
「、、、、、、、、、、、、真面目だね、、、、キャサリー、、、、」
キャサリー
「茶化さないでよ!」
アレクセイ
「知らないよ、、、彼女とか居た事無いし、、俺は実家に帰りたいだけだし」
キャサリー
「好きってどうやって知れるの?愛ってどうしたら知れるの?、、、教えてよ!」
アレクセイ
「嘘ついた」
キャサリー
「?、、、、、、何が」
アレクセイ
「分かんない、、でも嘘ついた、、キャサリーは今明確に嘘を吐いた、、、怖いんだろ?ハジコの代わりをするのが」
キャサリー
「っ、、、、この、、、バカ、、、、、」
アレクセイの冷え切った言葉が、彼女の核心を真っ向から撃ち抜いた。
指摘された瞬間の動揺を打ち消すように、キャサリーはアレクセイの次の言葉を塞いだ。
キャサリーはアレクセイの口を開かせない様に、深く、縋るようにキスをした。
時はいつからか、いつまでか。止まってしまった時間の流れの中で、意味を成すのは互いの体温だけだった。
宇宙の深淵に浮かぶ金の星。
ヴィーナスが放つ真珠のような輝きが、二人の影を月面に溶かし、その光が凪いで永遠の静寂に帰すまで、抱擁は解かれることはなかった。
