54話:155.170.169.174

月の閉鎖空間に、張り詰めた沈黙と、場違いな嗚咽が混じる。

アザミ

「え、、、えと、、、、その」

視線を泳がせ、縋るようにキャサリーの服の裾を握る彼女に、視線が突き刺さる。

アレクセイ

「、、、、、本当の名前は?」

一歩踏み出し、逃げ場を塞ぐ少年の瞳には、幼さに似合わぬ鋭利な猜疑心が宿っていた。

アザミ

「、、、、、、、、ぅ、、、、、、あの、、、(、なんなの、、この子供、、、、、)」

震えながら後退り、心の内で毒づく。

その怯え方は、あまりに年相応、いや、この場にいる誰よりも幼く見えた。

アレクセイ

「キャサリーから離れなよ」

アザミ

「ぅ、、、うう、、、、ごめんなさい、、、死にたくないだけなんです、、、」

あふれ出した涙が頬を伝う。彼

女は取り乱した様子で、頑なにキャサリーから離れずに泣き始める。そ

の様子に、同行していたユーリがたじろぎ、アレクセイの肩に手を置いた。

ユーリ

「あ、、アレクセイ、、僕達より年下みたいよ?、、辞めようよ、、流石に」

だが、庇護対象として扱われたはずのキャサリーから、冷ややかな分析が飛ぶ。

キャサリー

「歳下?、、、、、それはありえないわ、、、、児童保護法で18歳未満に手を出した場合、軍が潰しに来れるもの、、、、18歳1ヶ月以上のはずよ?」

アレクセイ

「、、、、、、む、、余計に怪しい、、、」

事実の整合性を問うアレクセイの追求に、女の泣き顔が微かに歪んだ。

アザミ

「、、、、チッ、、、、、、」

キャサリー

「舌打ちした、、、、、、」

ユーリ

「え、、、、」

アレクセイ

「ほらぁ」

勝ち誇ったようなアレクセイの言葉を合図に、震えていた肩がピタリと止まる。

アザミと呼ばれた女は、涙を拭うこともせず、豹変した冷たい声で言い放った。

アザミ

「私の名前はセナ・オディキュラム、、、、、、アザミは源氏名よげーんーじーなー、、子供は知らないだろうけどね」

アレクセイ

「オディキュラム?、、、、、、知ってるキャサリー?」

聞き慣れない響きに、キャサリーは記憶を必死に手繰り寄せる。

キャサリー

「えぇと、、、えぇと、、、、ハジコの家が来る前の、、最初に月都市を作った科学者集団の、、えぇと、、、えぇと」

ユーリ

「ん?、、、、、ケーニッヒ・クラムのやつ?」

キャサリー

「えぇと、、それなんだけど、、なんか色々あって、、、クラム家が没落して」

没落という言葉が引き金だった。セナの表情が激昂に染まる。

セナ

「没落してないわ!そもそも!!嵌められたのよ!!は!め!ら!れ!た!!」

 アレクセイ

「ケーニッヒは偉大な科学者だよ?、、、歴史にも科学の教科書にも、、エアドームの開発からテラフォーミング技術を初めて実用化して月で暮らした、、こんなやつがその子孫?」

底辺を這いずるような今の彼女の姿からは、歴史上の偉人と結びつく要素など微塵も感じられない。

ユーリ

「でもじゃあなんでオディキュラムなのさ、、、セナ・クラムのはずじゃないの?」

セナ

「るっさいわねぇ、、忌み名よ、、い!み!な!!」

吐き捨てるように叫ぶセナ。誇りと屈辱が入り混じったその叫びに、三人はただただ圧倒される。

キャサリー

「へぇ」

アレクセイ

「ふぅん」

ユーリ

「ケーニッヒの子孫なのに?」

セナ

「うるっっさいわね!」

ヒステリックに喚き散らす彼女の背中を見つめながら、アレクセイ、キャサリー、ユーリの三人は、全く同じ感想を抱き、心中で声を揃えた。

アレクセイ、キャサリー、ユーリ

(いや、、、そっちがずっとうるさい、、、)

用語集で見る →