暗い備蓄庫の中に、カセットコンロの青い火が灯る。
シュンシュンと音を立てて沸騰する湯の音が、沈黙を埋めていた。
アレクセイ
「、、、、沸いた、、、、、ラーメン♪ラーメン♪」
アレクセイは手慣れた動作で即席カップ麺に湯を注ぐ。
その軽快な鼻歌は、死の街の地下にはあまりにも不釣り合いで、暴力的なまでに日常的だった。
セロニカ
「ねぇ、、本当に逃げられると思う?」
膝を抱え、闇を見つめるセロニカが消え入るような声で問う。
ユーリ
「、、、、、、逃げれるよ、、必ず」
ユーリの励ましを背に、アレクセイは三分待つのも惜しむように麺を啜りはじめた。
ズゾゾゾゾ、と耳障りなほどの音が通路に響く。
アレクセイ
「うま、、、うま、、、、、うーん、、、賞味期限が100年もあるとは、、すごいなぁ、、」
セロニカ
「む、、アレクセイはなんでそんなノーテンキなのよ」
耐えかねたようにセロニカが顔を上げる。その瞳には、恐怖を通り越した憤りがあった。
アレクセイ
「、、、、、、、、、、、どうだろ、、、お腹空いたんだもん」
セロニカ
「はぁ!?今どういう事態かわかってんの!信じらんない!」
ユーリ
「まぁセロニカ落ち着きなよ、、お腹空いてるだろ?もう、、、19時だよ、、」
セロニカ
「っ、、、、わかってるよ!!」
投げやりな怒号。だがアレクセイは、空になった容器を置き、冷静に時計の針を指し示した。
アレクセイ
「テロの発生が16:37だった、、、外からの軍警はここの都市に入るには様々な手続きがいる、、最短で明日の早朝、、、、お腹いっぱいになろセロニカ?」
セロニカ
「なによ!もう!私だけ変みたいじゃない!!こういうつもりじゃなかったのに!!もっと私の学園生活があったの!!アレクセイもユーリもなんでそんな冷静なのよ!!おかしいわよ!アンタ達!!!」
セロニカの感情が爆発する。
奪われた未来への未練、そしてこの期に及んで効率で動く目の前の少年たちへの嫌悪。
ユーリは黙って、彼女の分の容器を差し出した。
ユーリ
「、、、、冷静か、、どうだろ、、、、」
アレクセイ
「知らないよ、、、、、、俺はもう故郷に帰りたいんだ、、、、セロニカがパニックになるのはわかる、、でもそこで取り乱しちゃ獲れるものも獲れなくなる、、」
セロニカ
「だからそう考えられるのがおかしいって言ってんのよ!こっちは!」
アレクセイ
「、、、、、、、、、、、、、、、、、む、、、、なら勝手にしろよ!」
アレクセイは突き放すように言い捨てると、ユーリのスマートウォッチを奪い取り、ライトを点けて闇の奥へと足を進めた。
ユーリ
「、、、セロニカ、、、」
セロニカ
「、、、私だって、責めたい訳じゃ、、、、、、だって、、安心したら、、一息ついたら、、、だってみんな死んでた!潰れてた!!嫌よ!!あんなの!子供も!おじいさんも!おばさんもみんなみんな!!」
一人の影が消えると、セロニカは崩れ落ちるように泣き伏した。
網膜にこびりついた、肉と血の混じった光景が彼女を苛む。
ユーリは静かに彼女を抱き寄せ、その震える背を何度も叩いた。
ユーリ
「、、、アレクセイだって本当は怖いんだ、、」
セロニカ
「うそよ、、アレクセイには力があるじゃない!おかしいわよ!だってあんな!」
ユーリ
「能力があっても怖いよ、、アレクセイだって怖いよ、、、だって僕らまだ16歳なんだよ?、、無理だよ、、怖いよ、、嫌だよ、、僕だって!!」
ユーリの声が、これまでにないほど大きく、悲痛に震える。
セロニカはその叫びに、自分と同じ熱を感じた。
セロニカ
「ぅ、、ぅぅ、、、もう、、やだぁ、、もうなんなのぉぉぉぉ!!」
彼女はユーリの胸に顔を埋め、幼子のように泣きじゃくった。
ー
暗い線路の中
アレクセイ
「、、、、、、、、、、、っ、、、ぅ、、、おぇ、、うおえええええ!!!」
ライトの届かない闇の中で、彼は唐突にうずくまり、胃の中のものをすべてぶちまけていた。
震える指先。冷たい汗。先ほどまで説いていた冷徹な天才の顔はどこにもない。
アレクセイ
「、、、、、、、やだよぉ、、もう、、やだよぉ、、帰りたいよぉぉ、、、母さん、、、ぅぅう、、、、もう、、やだよぉぉ」
暗闇に響くのは、ただの子供の泣き声だった。
どれほどの知能があろうと、どれほどの力があろうと、生き残るためにどれほど自分を殺そうと。
能力があれど、生き残れど、彼らはまだ子供なのだ。
大人でさえ混乱し自滅する中でよくやっているのが彼らなのだ。
