薄暗い裏路地の隅、ひっそりと佇む鉄の円盤をアレクセイが見つけ出した。
アレクセイ
「あった!地下道!」
セロニカ
「これってマンホール?下水道って事? 」
鼻を突く下水の臭いを想像したのか、セロニカが顔をしかめる。
しかしアレクセイは、蓋の縁に刻まれた微かな記号を指先でなぞった。
アレクセイ
「違う、この形的に地下鉄の点検用の入り口だよ」
ユーリ
「とりあえずこれで一息、、つけるのかな、、 」
ユーリが周囲の爆音に怯えながら、縋るように呟く。
アレクセイが重い蓋をこじ開け、真っ暗な穴の底へと梯子を伝って降りていく。
それに続き、三人は閉鎖的な闇の中へと身を隠した。
アレクセイが手首のスマートウォッチを操作すると、鋭いLEDの光が円筒状の通路を真っ直ぐに貫いた。
アレクセイ
「、、、、、、、人の気配は感じない、、大丈夫そう」
光の先には湿ったコンクリートの壁が続いている。
静寂が、地上の地獄を一時的に遠ざけていた。
セロニカ
「キャ!またユーリ触った!私のお尻! 」
ユーリ
「それはごめん、、だけど今のは暗かったから、、僕がって訳じゃ 」
狭い梯子を下りる際、不意に手が触れたのか、暗闇の中でユーリの弁明が虚しく響く。
アレクセイはそんな二人のやり取りを背中で聞き流しながら、慎重に歩みを進め、ふと思いついたように問いかける。
アレクセイ
「なぁ、、セロニカはここに来て長いのか?」
セロニカ
「え?うーん、、飛行機の時間の関係で3ヶ月くらい前から暮らしてる、私火星出身だからさ」
アレクセイ
「そうなのか」
アレクセイは地下道の転がってる石を蹴りながらゆっくり進んでいく。
セロニカ
「2人は?」
ユーリ
「アレクスと僕は同郷でオーストラリアだね、あの南にある大陸のやつ」
セロニカ
「へぇじゃあ結構良い暮らししてたんだ」
地球という中心地の、さらに豊かな大地。火星育ちの少女にとって、それは羨望の対象でしかなかった。
アレクセイ
「どうだろ?基本牧畜と農業しかないし、火星のがすごいんじゃないのか?だってあそこ経済一等地だろ?」
セロニカ
「そんな訳無いじゃない火星ですごいのは空港があるとこだけで他はそこまでよ、私は農家出身だし」
ユーリ
「そうなんだ、、、、」
生まれ育った土地において、誰もが自分の故郷を何もない場所だと思っている。
そんな皮肉な共通点が、三人の距離をわずかに縮めた。
やがて通路は突き当たり、錆びついた分厚い鋼鉄の扉が彼らの行く手を阻む。
カンカン! カチャカチャ!
アレクセイがノブを回そうとするが、金属が噛み合う不快な音が響くだけだ。
アレクセイ
「開かない、、、鍵が掛かってる、、、」
セロニカ
「えぇ、、ここまで来て行き止まり?」
背後の闇から迫る恐怖に、セロニカの声が震える。
だがアレクセイは、扉の構造を一度だけ確認すると、静かに数歩下がった。
アレクセイ
「ちょっと離れてて」
ユーリが瞬時に状況を察し、セロニカを引っ張って後ろに下がる。
アレクセイは深く息を吐き出すと、凄まじい瞬発力で地面を蹴り飛ばした。
ガァァァアン!!!!
鼓膜を揺らす金属音と共に、強固なロックが引きちぎられ、扉が勢いよく奥へと跳ね飛んだ。
アレクセイ
「よし、開いた」
セロニカ
「は、、いや、、いや、、いやいやいやいや、、人間にアレ開けられるの!?もしかして地球住みは重力強いから肉体強いってやつ!?」
あまりに非科学的な光景に、セロニカの常識が崩壊する。
ユーリ
「いやアレクセイだけ特別、アイツただのフィジカルモンスターだから、僕にはアレを求めないでね、、あと火星と地球の重力は0.2しか変わんないでしょ」
ユーリは慣れた様子で肩をすくめ、物理法則を超越した親友を呆れた目で見つめる。
アレクセイ
「?、、何話してんの?、、、いくよ!」
ユーリ、セロニカ
「はーい」
